エングラム








帰りの電車に座りながら、何の曲を弾こうか考える。

ピアノは苦手な方ではない。
どちらかといえば得意な方だと自負している。
だが特別好きなわけではない。

ショパンは、好きだ。ショパン。

私は頭の中で有名な曲、仔犬のワルツを頭の中で歌う。
あの曲、リズムとか可愛らしい三拍子だったなあ。

リストも好き。フランツ・リスト。ラ・カンパネラの楽譜はいつかに見て絶望したなあ。

──さぁ何をシイに弾こうか。

あぁ帰ったらベースの練習もしなきゃ。

そういえば月曜日提出の宿題も──と、考えてあくびをする。

まぁ宿題は良いや。受験生だけど。

やりたいことをやってやる。
中学生最後の青春だ。

彼らとの出会いが輝きをくれた。

あの音楽が頭の中を流れる。
ケイの声、ベース。ユウのギター。シイのドラム。

そうだ、この夏。
勉強なんかよりしたい音楽がある。

ベース、たどる音。
その重低音が心臓を動かす。


今度ユウにお願いして、ショパンかリストの曲編曲してもらお。
みんなと合わせられたら楽しいだろうな。

ケイの好きなビートルズも中々楽しいけど、クラシックも良い。

思わず口元が緩んだ。
気付いて、近くにいる乗客に変に思われないよう表情を固めた。

帰ったら楽譜探そうっと。



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