エングラム








それから数曲合わせた。

時折ついていけなくなると、近くにいたケイが足でベースのリズムを刻んでくれた。

さりげない優しさが温かい。


ギターが突っ走るところになると、その少し前にユウが視線を合わせてくれた。



ドラムは力強く支えてくれて、私が次の場面に危機を抱くと心なしか力強く背中を叩かれた。



駅前で彼らクラスペディアを見た時はこんな風に音楽するなんて想像できなかった。


それが今、あのきらめく音の中にいる。



自分が汗をかいているのが分かる。
まさかこんなに熱くなるなんて。

思えばカサカサだった心臓。
そこに音が流れてる。

灰色の中。
人に捨てられた場所の中。

その中で音楽に包まれて、生きてると再確認。


「──さあ、ここまでにしましょう」

ユウが腕時計を見て言った。

「はーい、次は駅前ライブだねー」

ケイはぐいと伸びをして、ストラップからベースを外している私を一度見てから言った。

「今までは駅前現地集合だったのに、シランちゃんにベース練習させはじめた日からだよねぇ」



< 145 / 363 >

この作品をシェア

pagetop