エングラム
パッヘルベルのカノンは、優美で柔らかい華やかさがある曲だ。
ギターでやると、それが鋭利で美しいものになるとユウの音を聴いて感じた。
──…だ、が。
たった9小節弾いた所で、私の音は躓いた。
手が止まってしまった私に、シイが言う。
「ギターとドラムだけじゃ音は空っぽだ」
そう、安心して弾き進められない。
頼れる音が欲しい。
「ベースがないと締まりがないだろう」
地味な楽器だの、あってもなくても変わらないだの。
そんなこと言われるが、下手でもベーシストとしては大切さもよく分かっていた。
「……やっぱベースがしっくりきます」
シイにとってのドラムみたいに。
そう言いながら、ベースに変える。
「お前のベース好きだぞ」
音が白くて純粋なんだよ、とシイがスティックを手首で回す。
「…ありがとうございます」
さりげない言葉に浮かれそうになる。
「まぁ白ってのは何にも染まってない未熟さもあるけど」
うっ、と言葉につまる。
静かに落ち込む。いや仕方ないけどね。
「すまん。いやけどその音が良いんだ」