エングラム
昔はそうじゃなかったのかな、なんて思いつつチューニング。
シイはドラムセットの間のイスに座って、楽譜を開いていた。
「何か合わせませんか」
チューニングを終え、声をかける。
「リズムしかいないがな」
喉を鳴らしながら、シイが言った。
「じゃあ私ギター借りても良いですか」
ギターはユウに少しやらせてもらった程度だけど。
「良いぞ、曲は何に?」
唇の端をシイが釣り上げた。
「…パッヘルベル作曲の3つのバイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ」
「クラシック好きだな」
ロックも好きですけどね、と言い返す。
「いわゆるパッヘルベルのカノンか。カノンロックっつうのもあるし良いな」
楽譜はあるのか?と言われ、以前ユウに編曲してもらったものを出す。
「正直全然ですが」
ベースの代わりにギターを構え、軽く指を動かす。
「まぁ気楽にな」
そう言われ、少し力を抜き目を合わせる。
シイがスティックを打ち鳴らした。