エングラム
「不思議だな、名前も知らないのに恋人なんて」
恋人。そうシイが言ったことが少し嬉しい。
「ですよね、不思議です」
くすくすと二人で少し笑う。
「オレは──」
シイは胸元に片手を当てて、軽くお辞儀をしてから言う。
「セージ、と言います。──紫蘭さん」
それこそ初対面で、戯れのような名乗り方。
座ったまま、私も真似る。
「セージさんですか、銘に刻んでおきます」
そう言って、やっぱり笑った。
「セージって漢字でどう書くんですか?」
「聖なる、の聖に司って書く」
「綺麗な漢字ですね」
どこか鋭い感じもピッタリだ。
「じゃあ、なんでシイなんですか?」
聖司、という名前ならセイと呼ばれていてもおかしくない。
「あぁ、名字。──椎名」
椎名聖司。心の中で言った。
「椎名だからシイですか」
じゃあユウは?と尋ねる。
「ユウは、優しいって書いて優」
名前そのままだ、とシイが答えた。
「どうしてシイだけ名字なんですか?」
ケイは惠太という名前から。
ユウも優しいという名前からだ。
名字の椎名から──シイ。