エングラム







「……しぃ…」

夜中、目が覚めた。
瞼が半分しか開かない。あぁ私まだ寝ぼけてる。

「なんだ?」

慣れたシイの声。
セージと名で呼ぶより染み付いた呼び名。

呼べば帰ってくる距離。

「…ケイ大丈夫でしょうか…またみんなで唄えるでしょうか…」

考えないようにしていた。
彼といたから考えずに済んでいた。

メンバーが欠けたライブ。
ケイの失った腕。

「……ケイがあ、ぁ…」

まだ私は寝ぼけてるのか。──涙が、出そう。

夢か。あの悲しい笑みが張り付いてる。

「……け、ぃい…」

出会う前から私に謝っていたと言った、彼の涙は。
どこに溜まっていったのだろう。

「シラン」

薄暗い視界。確かな声。

この歳になってから、些細なことで枕を濡らすようになった。

だから、今だって。なのに。

「傍にいる、苦しまないで」

目に手が当てられた。
視界が暗くなって、私の世界はその声だけになる。

「…だっ…てぇ…」

明日からもう、あの声は音はないのかもしれない。

私が泣くのは傲慢だ。だけれど、泣いてしまう。


「…ケイ…っ」

目に当てられた手が優しい。



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