エングラム



シイは一足早く朝食を食べ終え、花屋の方を準備してくると席を外した。

「良かったら、食器洗うの頼んで良いか?」

喜んで返事をした。
だって、本当、夫婦みたい、なんて。

「じゃあそれで落ち着いたら病院行こうか」

ケイへの見舞いだろう。

「はーい」

シイは奥に姿を消し、私は台所で食器を洗い始めた。

洗っているときにふ、と思い出した。


──…昨日もらった花がテーブルにないことを。


あの花がないと、昨日誓った永遠にも似た約束さえなくなってしまったようだ。

「……」

少し不安を感じながらも手を動かす。

コップも洗い終え、作業を終えた時に丁度、ギシッとわざとらしく足音が鳴る。

振り向くと、テーブルに両手をついたシイが笑ってる。

「シイ?」

手元にあったタオルで手を拭いてから、尋ねるとシイが私に──

花束を、投げた。



「え」



慌てながらそれを両手で受け止める。

甘い香りの中に花びらが舞う。

結婚式で投げるブーケのようだと思った私に、


「それ、ケイにだから」

ニヤニヤと笑いながらシイが言った。



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