エングラム



「二人乗りは後ろの奴の方が死亡率高いんだぞ馬鹿」

「シイの後ろで死ねるなら…」

「微妙に嬉しくない。お前の命はオレのもんだから」

あの時ビルの屋上での瞬間にそうなっただろ、とシイが鼻を鳴らす。

「じゃあ良いですよもう!──へいタクシー!」

「あっ、おい」

玄関先から飛び出し道路に向かって手を振った。

…タイミング良くタクシーが止まった。

「お客さん、どうぞ」

人当たりの良さそうな運転手が私と、私の腕を掴もうとしたシイに笑いかけた。



「……なんかすげぇナイスタイミングだな」

「………そうですね」

ふっ、と笑いながら、私たちはタクシーに乗り込んだ。

シイが運転手に病院名を告げ、車が走り出す。

「バイクはまたいつか…」

「せめて自転車にしないか?」

呟いた私に、困った表情をしながらシイが言った。

「あ、自転車の二人乗りは学校で禁止されてて」

「変な所で真面目だなおい」


いつかお願いしますよ、いつか。

そう言った私に親のように、いつかな、とシイが言った。

いつか、と増える約束が嬉しくて笑った。



戯れの言葉が、見えない未来に繋がる。

未来が見える者にとっては、言葉だけの約束など絶望だと知らず。



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