エングラム
──病室には、先客がいた。
「シイ、シランさん、昨日ぶりです」
ベッドの傍らの椅子に座り、ケイと話をしていたユウだ。
「あ、昨日ぶりーっ」
ケイは笑顔を向け、私たちに左手を振った。
「昨日ぶりです、ケイ、ユウ」
「昨日ぶ…、って何この挨拶」
シイは病室の扉を静かに閉め、花束をケイに渡す。
「うわあーっ、ありがとうシイ!」
昨日は一つしかなかった椅子が増えていた。ユウの隣の椅子に座る。
「花束はシイ専門、ですか」
ユウが綺麗ですねと言った。
「花束はシイ専門?」
訳が分からず、ユウに尋ねる。
「いえ、昨日ケイが、花束はシイ専門だから要らないよと私の去り際に言ったんですよ」
「あー…」
成る程、と頷く。
そういえば昨日、ユウは私たちを先に帰らせてケイに何の用事があったんだろう。
ケイとユウの笑顔から、そのことは何も伺えない。
、、、、、、、、、、、
笑顔こそは、最強の仮面だ。
常に笑っているユウは──…いや、何考えてるんだろう。
心の深淵は伺えない。