エングラム



体に熱が回ってきた、と少しふにゃっとした口調で私が言うとシイがペットボトルを私に差し出した。

だが私はペットボトルを受け取らず──ベースを、持ち出した。

ロックしようぜ!

…………と叫んだらしい。

そしてアンプで音量を最大にして、へったくそに何かを弾いたと。

それを急に止め、文字通りベースを投げ出すとエレキドラムの間に座った。

私が投げたベースは、一瞬顔が本気になったケイがスライディングキャッチしたとか。

スティックを振り回す私を、青ざめたシイが叫びながら抑えたらしい。

取り押さえられた私は水を飲んでしばらくして酔いを覚ました。

……ユウはただ笑ってるだけだったとか。

しかも、シイのお弁当を超辛口で批評しながら。

このおかず、まだ火が足りません。野菜の形が均等じゃありませんと。


その日の練習は、ケイがいつもより私に厳しかった。

時折ユウが私を庇ってくれたが、ケイはベースを投げたことでやはり怒っていたらしかった。
……あくまで笑顔のままだった分怖かった。



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