エングラム
「──懐かしいなーっ弁当事件!」
シイが声に出して笑った。
「シランさん、今度一杯どうですか?」
「止めろ未成年が」
シイが私の代わりに突っ込んだ。
ひときしり四人で笑うと、息を整えてからケイが言った。
「あ、ちょっとお手洗い行ってくるねぇ」
手を貸すべきか悩んだが、シイもユウもそうしない。
ケイはゆっくりと足を下に下ろし、近くにあった松葉杖を左腕でとる。
引き攣った笑顔とも言えぬ笑顔。
「車椅子は、使いたくなくて」
右腕も使えないのに、松葉杖を使おうとするケイの姿が──痛々しいと言ったら失礼か。
「──っあ」
ケイの体が前のめりに倒れそうになる。
「あぶねっ」
シイが素早く、ケイの体を受け止めた。
「………車椅子、使えよ」
シイがケイをベットに座らせてから、目を伏せて行った。
「転ぶこと、分かってたんだけどね」
未来は変わらないね、口元だけが笑ったままのケイが言った。
私は立ち上がり、車椅子を用意する。
ケイはシイにの体を少し支えにしながら、それに座る。