エングラム



メンバーも、何も。私は知らない。

「あ、メンバー…うん格好良いよ」

だがそれを飲み込み、吃りながら返事をする。

「黒髪のドラマーと、金髪のギタリスト!どっちか彼氏だったりする?」

この年の子は、彼氏という響きに無駄に憧れる。

黒髪のドラマーにも、金髪のギタリストにも。
そんな人種とは関わったことはない。

「ううん、まさか」

そう答えた途端、意識の底で違和感を叫ぶ声も消える。

ああ、きっと気のせいだ。

「そっかあ、いやけどシランちゃん凄かったよー!」

誰かと勘違いしてるのだろう。
そう思いながら、そんなことないよと、小さく返事をした。


「あといつもピアノ弾いてたよね、一学期終わるぐらいの昼休みに」

シランさんって音楽家だねー、と笑う彼女に苦笑を返した。

…ピアノなんてもう、随分弾いていない気がするのに。



名前も覚えてないクラスメイトと一緒に教室に入った。

自分の席に着いて、グループを作り話す生徒たちをぼんやりと見ながら考える。


──ピアノを最後に弾いたの、いつだったけ。



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