エングラム



オウ兄がいなくなってから、──いつの間にか、なのかな。

何だろう、解せない。

クラスメイトたちの楽しそうなお喋りをBGMにし、私は本を開いた。

けれど内容が頭に入らなかった。

始業式の間も、9月に入っても退かない蒸し暑さが篭った体育館の中で考えていた。


──私は、何かを忘れているのだろうか。


それが一番落ち着く考えだがそんな覚え、ない。

都合よく何かを忘れさせたり、忘れるなんて無理があるだろう。

黒髪のドラマー?金髪のギタリスト?
そんな人今まで出会ったことがない。

何かがひっかかるのだが、──考えていたら気持ちが悪くなった。

止めよう、気持ち悪い。
ドッペルゲンガーでもいるのだろうか。

何より私の知らない感情が温かさが、ぼやぼやと浮かび上がっては消えるのだ。

そんなことを考えていたら始業式が終わった。


今に始まったことではないが──教室に戻ってからも誰とも話さず笑わず、本を読んだ。

そのうちスッキリするだろう、と曖昧な気持ちで結論付けた。



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