エングラム
何を尋ねているんだろうと言った後に気付いた。
だが彼は、簡単に答えた。
「ショパン。17の歌曲作品第1番」
──…思わず目を見開いた。
直後その表情を見られたくなくて、パッと俯いた。
答えた学級委員長は、低い声で続ける。
「吹奏楽部だし、引退したけど。クラシック村の人間だし」
「……そう、ですか」
ショパンは好きなピアニストだ。
私の知らない私が弾いていたのも頷ける。
ドッペルゲンガー説が真実味を帯びてきたと、言葉を失った。
「なんか願いごとでもあったのか?」
どうしてと聞くのは愚問だった。その質問に答える。
「──…あった、のかも…」
ショパン。17の歌曲作品第1番。
ショパンの歌曲を、親友のピアニスト、リストが編曲した曲だ。
この曲は──“乙女の願い”と呼ばれているのだ。
──だとしたら。
「ふうん」
──私は何を願っていた?
学級委員長は頷き、自分の顎に手をあてる。
「発表会用?それとも、誰かにあげる曲だったの?」
それこそ愚問だ。答えが出てこないのだから。