エングラム



「えっと…さあ?」

とりあえず口から出しただけの言葉に、学級委員長は肩を竦めた。

「すみません、わかんなくて」

そうなんだと学級委員長はさほど興味のなさそうに言う。

後ろで彼の友人たちだろう、男子たちが変な視線を送ってくる。

「ずっとさ、誰かに向けた曲だと思ってた」

何故と聞く前に、理由が述べられる。

「この曲さ、詩人のステファン・ヴィトフィツキに歌詞がつけられてんじゃん」

よく知っているものだと、感嘆を小さく漏らした。

明るく親しみやすい曲想に似合いの──太陽になりあなたの上だけで輝きたいと詩があるのだ。


──…乙女の、願い。


「…でさぁ、もう弾かないの?」

「どうでしょう、ね」

溜め息をつきたくて堪らなかった。

「ふうん、じゃっ」

委員長は一度私を見てから、友人たちの輪に戻っていた。

よく話し掛けられたな、と誰かが言った声が耳に届いた。

誰もいない窓の外に向かって、溜め息を吐く。

私が曲をあげたいと思う人なんていない。
なのに、何故か燻ったような胸に動揺した。



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