エングラム



「はぁ。てかお前彼氏いたんだなあ」

「この年の子そういうの好きですね」

「シイって言うのか?他中だよな?」

さりげなく話を逸らすがお構いなしらしい。

「知りませんよ!他人です!」

他人。
口にすると冷たい響きだ。

「ふぁん。良いなオレも彼女欲しい」

彼女が欲しいから女の子を好きになる。そんな感じの言葉が好きではない。

みんな、みんな。
大して好きではないだろうに、ただ彼氏彼女という飾りを欲しがる。

表情には出さず、そうなんですか、とだけ答えた。

「…なんでそんなテンション低いの?」

「いつもそうです」

いつの間にか一緒に帰っていることに、今更気付く。

一緒にいてほしいのはあなたじゃないと思って、一体誰を求めてるんだと自問した。
…きっとオウ兄だ。オウ兄だけだ。

「あー…お前ってピアノ習ってんの?」

話題がないのならわざわざ作らずとも別の人と帰れば良いのに、と内心捻くれながら答える。

「いえ、習ってません」

「お前自由人だもんな」

自由人のふりが上手いだけだと、足元の重い鎖を引きずる。



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