エングラム



「仲良い奴でも長くいると嫌な部分見えるもんなぁ。だからそれもないようにって適度な距離感」

「そうですね」

さすがに聞くに耐えなくなってきたかも、と思い素早く返事をした。

現実を突き付けて私の嫌な部分を見せないで。

そう、だから私にはオウ兄だけなの。

そう言おうと口を開いた。

「だけど私には、たった一人の──」

続ける。

「シイっていう彼がいる」



──そう言った直後に

「え、今なんつった!?」

自分で自分に突っ込んだ。

学級委員長が何か言う前に、私が私自信の自然な言葉に突っ込んだ。

「私今誰を呼びましたか!?」

「え、あ。──シイって」

頭を抑える私に、軽く笑って学級委員長が言った。

「顔に出ないタイプのくせに、その人のことだけ思いっ切り出すのな」

たまたま間違えたと、口元を手で隠しながら言い返した。

「口調変わってるぞ」

あぁもうシイという謎の名詞のせいだ。

「別に」

中身の見えないような苦笑を返す。



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