エングラム



「……委員長としての義務じゃないかな?」

「どんな悲しい義務だよ」

真面目に首を傾げた私の頭を、彼女がピシッと軽くチョップした。

「好きな人とかいないのぉ?」

好きな人。

───…“変わらぬ愛”…。

一瞬、ドラムの弾けるような音と黒い髪をした誰かが頭をよぎったのだけれど、すぐに忘れてしまう。

「いないいない!いると思う?」

顔の前で手を振って否定を込めた疑問。
すると彼女はふぅんと鼻を鳴らす。

「あ、い、つ!…あいつはいつも話してるし気があるかもよ?」

知らないよ、とはぐらかして笑った。

「ほらぁ、好きな人が走るよ!」

「だから好きじゃないってぇ」

彼女が指を指した先に、スタートラインに立つ委員長の姿。

…変なの。やけに格好良く見える。

しかも目が合った気がするのだから、私って思い込み激しいのかもしれない。

「が、頑張れーっ!」

そう声をあげた瞬間に、パンッとピストルが鳴った。



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