エングラム
「ごゆっくり」
彼女は私に小さく言うと、固まっている女子グループにすぐに混ざってしまった。
入りづらく、声を掛けることもできないので。
「お疲れ様、委員長」
彼に言葉を向けた。
「サンキュー」
彼は言いながら、タオルで顔を拭いた。
「あー…3位ってダサいよな」
「4位5位の人の立場はどうなるの」
そこも考えなよと、私は軽く彼を睨む。
「つか最後の障害物、麻袋に入って跳んで進むやつダサくね?」
話逸らしたよこの人。
慣れたことなので突っ込まず、思い出して笑った。
「見てると面白かったよ」
そりゃどうも、と委員長は頭をかいた。
「あんな表面的な障害物競走なんかやんなくたって、人生が障害物競走なんだよ」
「なにその人生が障害物競走って」
「離婚とかリストラとか自殺未遂とか」
「確かに人生の障害物!」
波瀾万丈だと二人で声をあげて笑った。
曲が変わる。
それに素早く気付いた委員長が指をたてる。
そして私と目を合わせた。
意図に気付いて、私も指をたてる。
お互い同時に息を吸って、声を合わせた。
「道化師のギャロップ!」
低い声と私の声が綺麗に混ざった。