エングラム
周りにいた数人がチラチラとこちらを見るが気にせず話す。
「ロシアを代表する作曲家ドミトルの曲」
委員長が指でリズムを刻みながら言った。
「1939年の組曲道化師の第2番だね」
何故かしばらく、体育大会などでよく使われる曲の話で盛り上がった。
頑張れと叫び応援しながら会話をした。
「いけぇえ!──くるみ割り人形のトレパックも面白いよな」
「頑張れえっ!──トランペット吹きの休日なんかも」
しばらくして、私が出場する100メートル走が始まるとアナウンスが告げた。
「頑張ってこい」
どうもと軽く返事をして、入場門に向かった。
体育大会は保護者や地域の人が多く、広い運動場が狭く感じる。
「おっと」
急ぎ足で入場門へ向かっていた私の肩がドンッとぶつかった。
「す、すみません!」
ぎゅっと目を固くつむって、頭を下げた。
「いえいえ、私こそ申し訳ありません」
その言葉に恐る恐る顔を上げて、相手の表情を伺った。
「大丈夫ですか?」