ゆゆし

白い指

学校から近い市立病院までの道を、篠田都は歩いていた。右手にユリの花束を持っている。
6月の半ば、太平洋側のこの地域ではもうほとんどの桜が青々とした葉をつけている。

新しいクラスになってから一ヶ月と少し経ったが、新学期が始まるやいなや体を壊してしまいずっと休んでいる担任の有坂を見舞うことは、級長である彼女の仕事だ。
一年生のときから習っている40代半ばの教師で、穏やかな性格だった。特別生徒から人気があるという訳ではなかったが、都が古典が得意だったこともあって、とても慕っていた。
だからその仕事が苦になることはなく、週に何度も訪れることもあった。

もうすっかり慣れた病室ま通路を、早足で歩く。
建物が新しいこの病院は、壁の色調も明るく、光が差して気持ち良い。
エレベーターに乗って7階まで上がる。有坂の入院する個室は、左に曲がってすぐのところだ。
都は勢いよく扉を開けた。


「有坂先生ーっ、・・・あれ」

「あら、篠田さん」

そこには有坂の姿はなく、同じ国語科の教師である夏井がいて、花の水を替えようとしているところだった。紫のガーベラ。これも都が3日前に持って来たものだ。
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