ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「はあああ!? 第一あいつは……」


「当主になったんだ。何故かはしらんが」


桜は面白くなさそうにそっぽを向いた。


「最悪じゃねえか。あの男、櫂を目の敵にしてやがるんだから!……それに」


俺はたった今、起きた出来事を桜に話した。


―― 血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の実験段階は終わった。ここ数日の内に本格的に動き始めるよ。だから……気をつけて、ね?


「元老院直属の五皇が1人、氷皇まで登場しただと!?しかも血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に関わっているのか、あの冷酷非情の男が! 何考えてるかは知らないが、間違いなく紫堂への警告だ。

つまり紫堂は、血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)と御階堂と、最低でも2つの手から櫂様を守らないといけねえ。これであの氷皇まで敵になってみろ! 

……現実が判るか、この木偶の坊ッッ!!!

恋だの愛だのほざいてる暇、ねえんだよ!

その暇あったらちっとは自分の腕磨けや!」


そして桜は、俺の胸倉を掴んだまま、その手を空に向けぴんと伸ばした。

俺の脚が数センチ程地面から浮く。


「…… 隠せ。完全完璧に芹霞さんへの気持ちを隠し尽くせ! 二度とそんな情けない面見せるな! 立場をわきまえろっ!」


そして俺を容赦なく、地面に叩き付けた。


「……玲様に頼んで、念の為てめえをこっちに寄越して貰って正解だ。そんな顔をこれからも櫂様に見せるかと思えば虫唾が走る。

……言いたいことは、以上ですわ」


桜は口調を変えながら、両手をぱんぱんと音を立てて叩いた。

情けない俺は、地面で胡坐を組んで、桜に見えないよう俯きながら唇を噛んだ。


判っている。桜は正論だ。


絶対、ばれてはいけない。

芹霞にも櫂にも。


ばれたら最後、俺は2人の傍にはいられなくなる。それだけはどうしても嫌だ。
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