ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
感情を忘れるなんて、簡単なことだろ?
8年前のあの時のように、
何も見ず、
何も聞かず、
何も考えず、
何も希望を抱かず、
ただ流されるままにいればいいのだから。
――あんた、何で笑わないのよ!
8年前、俺を解放したのは芹霞だ。
――煌だって、大事な幼馴染だよ。
戻ろう。
幼馴染という関係だけに満足していたあの頃に。
「……ちっ」
突如、桜の舌打ちが聞こえた。
まだ女々しくうだうだしている俺に向けられたのかと思ったが、違った。
「!!!」
突き刺さる複数の殺意。
俺も表情を固くして立ち上がる。
「随分と大勢でいらっしゃったようですわ」
桜は険しい表情のまま、黒いクマの人形を抱きしめ、黒い瞳を作る…黒曜石(ブラックオニキス)を指の腹で撫でた。
俺は耳のピアスを毟り取り、太陽石(サンストーン)を掌においた。するとそれは、偃月刀の形に変幻する。
そういえば、芹霞はこの仕組みがわからなくて、俺がいつも偃月刀を身に着けていると思っている。
ありえねえだろ。
俺は学校だって、公共機関だって利用しているんだ。
こんなもの見つかれば銃刀法違反でお縄だ。
どうしてそんなことも気づかないんだろう。
「……こんな時に、にやけるな阿呆がっ!」
桜に怒られた。
「悪い。……50人くらいか?」
「それくらいですわ。素人でもありませんね。彼らはどこの方々でしょうね」
「こんなの大勢飼えるってのは、やたら権力を誇示したがる、どこぞの陰険野郎じゃねえか。例えば…出世した何処かの生徒会長とかさ」
俺は偃月刀を構える。
街の中だというのにお構いなく、奴らは間合いを詰めているようだ。
「……煌。3分ですわ。3分で全て終わらせます」
「ウルトラマンみたいだな」
そして俺達は安全圏の距離を踏み越える。
戦闘…開始!!