ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
玲くんと初めて会ったのは、10年前の…櫂の変貌後。
気品がある綺麗な顔に、薄気味悪い…仮面のような笑いが張り付いて。
あたしはつかつかと玲くんに歩み寄り、反射的に身を屈めた玲くんの、白いその両頬を思い切り横に引っ張った記憶がある。
鳶色の瞳はまんまるで。
その瞳の色も、限りなく澱んでいたから。
あたしは騒いで櫂から手にした目薬を、無理矢理玲くんの瞳に注した。
多分――
玲くんにとっては最悪の初対面。
生意気なガキンチョだったろう。
それは今もかもしれないけれど、それでも彼は微笑を向けてくれる。
現在の玲くんの笑みは、昔と違う。
作ったものではなく、自然の微笑になった気がするんだ。
鳶色の瞳も澄んでいるように思う。
櫂が望んだ姿が今のものだというのなら。
櫂が願いを叶えたことは…櫂の幸せを願うあたしにとっては、喜ばしいものだけれど、同時にあたしは優しい玲くんも大好きだから。
だから、玲くんにとっての現在も、喜ばしいものであって欲しいと…願わずにはいられないんだ。
「僕にはあんなカリスマ性はないからね。例え僕に仕切る力があっても、紫堂の狸爺さん達を魅了することはできないだろう」
謙虚で聡い玲くんは、やはり寂しそうに言った。
「櫂だって、玲くんあってこそだよ?」
そんなに自分を哀しく思わないで欲しい。
そんなに自分を卑下しないで欲しい。
きっと玲くんは櫂の為に、大切な何かを犠牲にしてきたんだ。
玲くんは判っていない。
「玲くんが自分を影と言うのなら。
影あってこそ、太陽は輝くの。
だから――
ありがとうね、玲くん。
いつも櫂のこと、見守っていてくれて」
玲くんだから、櫂は救われている。
玲くんだから、あたし達が安心出来る。
玲くんは自分の力を判っていない。
自分を卑下しすぎなんだ。