ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



玲くんと初めて会ったのは、10年前の…櫂の変貌後。


気品がある綺麗な顔に、薄気味悪い…仮面のような笑いが張り付いて。


あたしはつかつかと玲くんに歩み寄り、反射的に身を屈めた玲くんの、白いその両頬を思い切り横に引っ張った記憶がある。


鳶色の瞳はまんまるで。


その瞳の色も、限りなく澱んでいたから。


あたしは騒いで櫂から手にした目薬を、無理矢理玲くんの瞳に注した。


多分――

玲くんにとっては最悪の初対面。


生意気なガキンチョだったろう。

それは今もかもしれないけれど、それでも彼は微笑を向けてくれる。


現在の玲くんの笑みは、昔と違う。


作ったものではなく、自然の微笑になった気がするんだ。

鳶色の瞳も澄んでいるように思う。


櫂が望んだ姿が今のものだというのなら。


櫂が願いを叶えたことは…櫂の幸せを願うあたしにとっては、喜ばしいものだけれど、同時にあたしは優しい玲くんも大好きだから。

だから、玲くんにとっての現在も、喜ばしいものであって欲しいと…願わずにはいられないんだ。


「僕にはあんなカリスマ性はないからね。例え僕に仕切る力があっても、紫堂の狸爺さん達を魅了することはできないだろう」


謙虚で聡い玲くんは、やはり寂しそうに言った。


「櫂だって、玲くんあってこそだよ?」


そんなに自分を哀しく思わないで欲しい。

そんなに自分を卑下しないで欲しい。


きっと玲くんは櫂の為に、大切な何かを犠牲にしてきたんだ。


玲くんは判っていない。


「玲くんが自分を影と言うのなら。

影あってこそ、太陽は輝くの。


だから――


ありがとうね、玲くん。

いつも櫂のこと、見守っていてくれて」


玲くんだから、櫂は救われている。


玲くんだから、あたし達が安心出来る。

玲くんは自分の力を判っていない。

自分を卑下しすぎなんだ。
< 151 / 974 >

この作品をシェア

pagetop