ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「昔ね、櫂の死んだお母さんと約束してたんだ。櫂を守るって。結局櫂は……あたしの手を離れたけれど、だけど玲くんという存在に守られているから、あたしは安心してる。

だけどね、玲くんは玲くんなんだから、一番に『玲くん』を優先してね。玲くん、いつも我慢しているのでしょう?」


鳶色の瞳は、あたしに囚われている。

何だか泣きそうな光を湛えている。


「櫂も紫堂もいいけれど、だけど玲くんが自分の為に普通に生きれれば、それが多分、あたしには一番嬉しい」


あたしが微笑むと、玲くんは僅かに鳶色の瞳をそらした。


玲くんの顔は少しだけ苦しそうに歪んだ。



「……参ったな」

「え?」


「結構…やられてるな、僕」


そう呟いて、こちらを見た端麗な顔は翳りが出来ていて。


何かを抑えているような切なげな表情で。


今にも玲くんが儚く消えてしまいそうな気がして、あたしは思わず玲くんの名前を呼び、その腕を掴んだ。


途端玲くんはびくっと反応すると眉間に皺を刻み、苦しげな表情で目を伏せた。


長い睫が微かに震えているようにも見える。


「玲くん、どうかした?」


驚いたあたしは思わず手を離し、もう一度玲くんの名前を呼ぶと、玲くんは…いつものようににっこりと微笑んだ。


「紫堂で、僕の専門は諜報だ。打算と策略の中から、情報を引き出すために、時には人を欺き、痛みつけて。

――だからかな、忘れそうになる」


「何を?」


「変わらない、何かがあること」


「?」


「暴力と驕慢の物騒な世界の中で、何が真実なのか、時々判らなくなる。そんな時、人は拠り所を見つけたいんだね、変わらない強さというものに焦がれる。

人が人であり続けるために」


何だか難しいことを言い、玲くんは自己完結をしたかのように、くすくす笑い出した。
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