ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「覚えておいて、芹霞」
表情がすっと変わる。
端麗に作られた真摯な表情に。
「誰もが君の幸せを願っている。僕も櫂も煌も桜も。君はいつだって1人じゃないよ。
――例えこの先、どんな闇に惑うことがあっても」
何かが起こるというような剣呑ささえ秘めた瞳を一瞬鋭くさせ、そして玲くんは、何事もなかったかのようににっこりと笑った。
「ねえ玲くん、前から思ってたんだけど、どうして玲くんの専門は『諜報』なの? 前桜ちゃんから聞いたけど、桜ちゃん、玲くんに負けたことがあるんでしょ? そんなに強いなら、桜ちゃんや煌みたいに前線に出てもよかったんじゃない?」
正直、あたしは桜ちゃんの戦う姿というものは目にしたことがない。
だけど、あの煌が『敵わない』と言っているくらいなのだから、本当に凄いのだろう。
「僕は心臓が弱いから」
「え?」
初耳だ。
言われてみれば、玲くんの肌は青白い。
あまり家の外に出ることはないとはいえ、透けるような色合いは確かに病的だ。
Sでなければ、薄倖の王子様だよね。
……とは言えないけれど。
「生まれつき心臓に欠陥があってね、激しい運動を長くは続けられないんだ。
だから紫堂の警護団を指揮する地位にいて、動かなくてもいい諜報ばかりを専門にしているんだよ」
そして玲くんはくすりと笑う。
「普通のことをする分には平気。だけど桜や煌みたいな運動を、長時間続けるのは無理。
……まあ、あの2人の体力や運動能力は尋常ではないからね。普通人としての運動くらいなら、全然大丈夫」
確かに、比較対象が違う。
「ははは。桜の上司で年上なのに、桜に簡単に負けてちゃ駄目だろ? とりあえず短期戦なら、今だって僕、負けない自信はあるから」
ああ。
あたしの周りは何て非凡なんだろう。
あたしは煌ですら、勝てる自信がない。