ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ああそうだ、あたしこれからちょっと弥生の家に行って来ていいかな。昨日結局連絡ないし、さっき電話したらまだ繋がらないし。ここからなら10 分もかからないから」
「……そうか、じゃ僕もついて行こうかな」
何故か玲くんが嬉しそうに言った。
「え、そりゃ弥生喜ぶだろうけど……だけどあたしなら大丈夫だよ?
玲くんは玲くんのお仕事あるでしょう?」
「ははは。たまには生き抜きも必要だよ。僕基本ここに引きこもりだし。大根特売日以外には、買い物はみんなネットで済ませちゃうしね」
大根好きな玲くんは、大根につられて外出をする。
こんな美貌の持ち主なのに、彼女もいない。
歩けば出会いが絶対あると思うけれど、大根以外は興味がないらしい。
大根を買ってきた玲くんは、本当に嬉しそうな笑顔を見せる。
――はい、芹霞。お裾分け。
あたしも大根は好きだけれど…。
"白さ"に…共感するんだろうか?
おまけに、あたしの生活全般…節約術の先生でもあるのに、前身は紫堂財閥次期当主候補。
櫂の肩書きを貰えるだけの素質があって、こんなに優雅で気品ある物腰なのに、一体何処で庶民の知恵を身につけたのか、一切が謎。
更には――
「玲くん電脳オタクだもんね。きっと玲くんの仕事部屋って、壁一面近未来の機械が並んでいて、きっと玲くんは機械語なんかぺらぺら話せちゃうんだわ」
玄人の機械知識。
その引き出しの多さに感嘆するばかりだ。
玲くんはこの家にある自分の仕事場兼寝所を、いまだあたしに見せてくれない。
だからあたしの妄想は膨れるばかり。
「完全否定できないのが悔しいね」
「え? どの部分?」
「……どの部分だと思う?」
質問を質問で返された。
気になる。
だけど玲くんは、艶然とした笑みを浮かべながらあたしの質問攻めを軽くかわし、外出の支度を始めた。