ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
あたしは、弥生の双肩を前後に揺さぶった。
「……せ、りか……芹霞?」
弥生は正気に戻ったようだ。
「よかった、芹霞……。
無事で本当に良かった……」
突然泣き出してしまった。
「弥生どうしちゃったの、携帯切ってるし」
「ぐすっ…ブラッディ・ローズがね」
ぴくんと、玲くんが反応する。
瞬時に眉根に皺が寄っている。
「玲くん、ほら偽櫂の、例のあ恋愛ゲームの名前の方よ。で、弥生、ゲームがどうしたの?」
あたしは弥生の隣に座って、優しく訊いた。
「うん。紫堂くんがキスしたいっていうから、吐息が薔薇の香りになる、昨日のあの香水を飲んだのね。というか、飲んで欲しいと、紫堂くんにいわれたのね」
偽の櫂。
何て手の早い、軽い男なんだ。
「………」
ほら、玲くんも反応に困っている。
「水に希釈して飲んだらね、"アレ"が窓の外に見えたの。
昨日の……あの化け物が」
弥生は恐怖に怯えた顔でそう言いながら、腕をぽりぽり掻いている。
彼女はストレスが溜まると腕が痒くなる体質だ。
「……幻覚症状?」
玲くんは目を細め、白木作りの鏡台の上にある、ハート型の赤い瓶を手にし、手で仰いだり、直接鼻で匂いを嗅いでいる。
「弥生ちゃん。店舗名と香水名は?」
「……アリス。
永遠の乙女というコンセプトで作られた香水です。店舗も同じです」
アリス…だったんだ。
「これ、借りていってもいい?」
「どうぞ」
「……変なこと訊くけどさ、その香水店、男の子って居た? もっと具体的に言うとさ、この香水を買っていた男子居た?」
あたしは弥生と顔を見合わせ、居ないと首を横に振る。