ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
何の?
訊こうとしたあたしの目の前に、見慣れた十字路が見えた。
この十字路を右に曲がったすぐの一軒家が弥生の家だ。
「弥生の両親は共働きでね、大体は弥生一人だから……あれ、チャイムを鳴らしても弥生も出てこないね。……んー、鍵もかかっているのなら……って、玲くん、一体何を……」
「ん? 中に居る弥生ちゃんに会いにきたんでしょ? じゃ会おうよ」
「な、なんで鍵が開いてんの?」
「何でだろうね。きっと最初から鍵が開いてたんだよ。さ、行こ?」
にっこり。
絶対鍵はかかっていた。
あたしがどうしようと考えている僅かな時間、きっと玲くんが解錠したに違いない。
器用な玲くん、そんなことも出来てしまうんだ。
あたしは心で弥生に謝りながら、玲くんと家に入った。
「弥生~。芹霞だよ、玲くんも来たよ~」
しかし家の中はしんと静まり返っている。
「もし熱でも出してうんうん唸っててもやだし、部屋、行ってみようか」
病身を玲くんに見せること敬遠したい気もするが、とにかく行ってみるしかない。
あたしは玄関から入ってすぐの階段を上り、左手にあるドアをノックした。
何度か訪問したことがあるから、この家の勝手はよく判る。
コンコンッ
「弥生~、入るよ~」
暗い部屋だった。
もう昼過ぎだというのに、
光を遮断する暗幕のカーテンがしめられたまま。
「……せ、り……か?」
ベッドがある片隅に応答があった。
玲くんがカーテンを開けると、
弥生が両膝を抱えるようにして蹲(うずくま)っていた。
「弥生、ちょっとどうしちゃったの?」
カーテンからの日差しに、僅かに弥生の目が細められた。
憔悴しきった青白い顔。
乱れた髪の毛。
そして――。
「薔薇の匂い?」