ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
間違いない。
硝子の破片と共に、部屋に突き出された手には薔薇の痣がある。
――また少女だ。
血に染まった制服を着たまま、
白目を剥いて弥生に飛び掛ろうとした。
裂けた口から見える、真っ赤な舌。
狂ったように叫ぶ弥生。
あたしは無意識に、弥生を引き寄せる。
庇うように、弥生に抱きつく。
――その時、
鳶色の髪が舞うように流れたんだ。
「玲くん!!!?」
玲くんがソレの下顎に手刀を入れた。
ソレは後方に仰け反る。
そして玲くんは、そのまま手首の位置を変え、今度は手の平でぐいと突き上げる。
ゴキンッ
何かが折れた嫌な音がする。
「頚椎折ったくらいでは、無理か」
――もう悪夢だ。
頭が背中にくっついているのに動いている。
何で、死なないのだろう!?
「芹霞、大丈夫だから」
玲くんは、あたし達を背にして立つ。
「凶々しい気だね……」
玲くんが、長い足を大きく一歩前に出し、右手の掌をソレに向ける。
殆ど同時にソレは、玲くんに腕を伸ばした。
身を捻り、玲くんは前傾姿勢でソレの胸元に掌を押し付ける。
「はっ!」
瞬間玲くんが短い気合と共に、ソレの胸が弾け飛んだ。
言うなれば、弾丸のような何かがソレの胸を貫通したかのような。
そしてソレは、散り散りになって消える。
「芹霞、携帯を見て」
玲くんに言われるまま携帯画面を覘いた。
もう赤い点はなかった。