ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「また業務連絡メール来たということは…紫堂のお仕事? 」
「ん……」
何だかとても言い難そうにしている。
これ以上、踏み込んだらまずいような、そんな困惑の表情を浮かべていて。
だから、あたしはこの話題は避けるべきだと悟った。
あたしは櫂がどんな仕事をしているのかよく判らない。
知らなくても関係は築ける。
だからあえて距離を作るようなことは聞きたくもないし、あえて向こうも語ろうとしない。必要があればあたしに言うだろう。
あたしから踏み込んではいけない。それが櫂にも煌にも持たないといけない、幼馴染としての最低限のマナーだと思っている。
「本当は煌、櫂の処にいなきゃ不味かったんじゃ?」
「櫂には玲(れい)もいるし、桜(さくら)もいるし、それになんたって、櫂がお前の心配して酷いんだよ。ほら、前、拉致られただろ?」
自慢じゃないがあたしは過去幾度も誘拐されている。理由は簡単。紫堂櫂の幼馴染だからだ。完全付録のとばっちりだ。
「何も気に病むことないのにね。結局櫂、助けにきてくれたじゃない」
「……。俺だって、行ったじゃねえかよ…」
「お、覚えているわよ、そんな拗ねないでってば」
「誰が拗ねるかよ」
そう漏らしたお口が曲ってる。完全拗ねているようだ。
煌は昔から情のみの交流に疎く、明確な言葉でなければ伝わらない処がある。
「判っているわよ、ありがとね、煌。
煌もあたしの大好きな幼馴染だよ」
にっと笑うと、不機嫌そうだった煌の顔が瞬間的に赤くなった。目を見開き、耳の先まで赤く染まっている。
「……なッ!!!
……あ……ちッ、
~~ッ!」
その様子に思わず口元が弛んだあたし。
詰るように、更に凄んだ顔を向けられても、効果半減。
煌は気づかないだけで、昔からこうした突発的な好意文句に弱い。
本当に愛(う)い純情ワンコだ。