ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ねえ、いい加減戻ってきなよ。ボロ家だけど、帰ってきてよ、ウチに。寂しいじゃん、長期家出しないでよ」


すると煌は顔を上げて、あたしに何かを口にしかけたが、あーと言って渋い顔をすると、がしがしと頭を掻いてまた俯いてしまった。


「……家が嫌だとかいうわけじゃねえんだ。ただ緋狭姉に会う覚悟がねえっていうか、いやこれは俺の問題で。

悪いけど俺、今日も櫂の処に泊まるわ。あ、でもお前は家まで送って……」


「え? これから櫂の処に行くんじゃないの?」

「誰が行くって言ったよ?」


当然の思い込みを、煌は即否定する。


「別に櫂が病気じゃないならいいじゃん。おとなしくしてるから……」


――そう言った時だった。


突然煌が顔の表情を消し、眼光を鋭くさせながら遠い一点を見つめたのは。


そして、あたしを自分の背後に隠したんだ。



「な、何?」



「……黙ってろ」



あたしは知っている。

この低い声音は、敵を前にした煌の警戒。



――敵が居る、らしい。



煌が居るから危機感はない。


だけど緊張感だけは、体にびりびり走る。


あたしは逃避するように、思わず空を見つめた。



――見事に、丸い月だ。



金色の月明かり。


青白く目に映る野生的な顔は、依然警戒心を色濃くさせた厳しいもので。


延々と続きそうな――

人気のない一本道。



その先で…

何かが揺らいだ気がしたんだ。

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