ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
瞬間――
目の前の煌の姿は消え、
そして男の元で姿を現して。
「てめえ!」
煌が手にした偃月刀を持ち替えながら、斜め上段から容赦なく男に振り下ろす。
しかしその時既に、男の姿はなく。
反射的に煌は、踏み込んだ右足を軸に斜め後方に身体を捻り、あたしの視界から姿を消した……直後。
かなり上空で2人の姿が現れ、硬い刃が交じる音が断続的に響く。
早い。
早すぎて、あたしの目が追いつかない!!
時々視界の端に動くものを見つけるが、それに意識を集中する時には、別の処に移動しているようで。
唖然とするしかない、脅威の速さ。
日頃、ワンコには尋常ではない強さがあるとは思っていたけれど、矢張り…人間ではなかったようだ。
さすがは緋狭姉、よくぞワンコを此処まで育てた。
同時に思う。
こんなに強いのに、喧嘩ばかりして育ったあたしが生きているのは、奇跡なのかも知れないと。
だけどそれはそれだ。
行け行け、ワンコッッ!!!
ガキンッ。
一際大きな、刃物と刃物がぶつかる音がして、ようやく煌の姿を捉えることが出来た。
上方から重力と共に押し潰そうという偃月刀が、下方の鉤爪によって制され…
あろうことか力を押し返されているようだ。
それもわざとらしい程、煌をいたぶるかのようにゆっくりと。
「元気がいいねえ、
ぎゃはははははは」
金色の髪。
金色の瞳。
月の魔力に憑かれたかのように…
小柄な男は妖し気な金色に侵蝕されて、大きな橙色を凌駕していた。
神々しいという形容とは正反対の処で、あくまで不純な動機で、堕落した美しさを注がれたかのような人工的な金の器。
その美しい器は、己が奏でる下卑た笑いの響きによって、より一層、崇高的な色合いを失くしていく。
年齢は判らない。
あたしと同年代にも見えるし、もっと年上にも見える。
男は詰襟で白い長丈の――
学ランにも似た奇妙な服を着ていた。