ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



それが現実だったと認識できるのは、ひらりと舞い落ちた、少女の制服――。


「ああら、お姉ちゃん怖かったあ? ぎゃははははははは」


何が何だか判らない。


男が確かに殺した少女は、あたしを殺そうとして、男にまた殺され、そして消えた?


何、一体何が起ったの!!?


「ガクガク震えちゃって可愛いねえ、ぎゃはははははは」


何がそんなにおかしいのか、男はあたしを見て爆笑するから。


だからあたしは――


「うるさいッ!!!」


――哀しくなったんだ。



同情や憐憫にも似た、この場ではまるで似つかわしくない感情があたしを支配する。


だからあたしはより一層躊躇(ためら)い、この不可解な感情と、その発信源の存在を無視できなくなった。


男は笑いをやめ、まじまじと…そんなあたしを見た。


だからあたしも精一杯相手を見据える。


負けるもんか。


無機質な金の瞳から、

あたしは目をそらさない。


そして…見えたんだ。



……闇だ。



艶やかな金色の瞳の奥に広がる、生粋の闇。

迷い込んだら、抜け出せなくなるような、そんな危険に満ちた闇。


――ちゃあああん!



ああ、また聞こえる。



――……ないでぇぇ!!



辺り一面、冥(くら)い闇ばかり。


あたしの中で、何かがざわつく。

何かが喚び起こされる。



――芹霞ちゃあああん!!!
 


「ぎゃはははは」



男の声に現実に引き戻される。 

男は満足そうに笑いながら、軽やかに高塀に飛び乗り、こちらをゆっくりと見下ろした。


金色の…美しい獣のようだ。


「気に入ったよ、お前」


「……はあ?」


「マジ、気に入った」


随分とご満悦のようだ。
< 25 / 974 >

この作品をシェア

pagetop