ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
それが現実だったと認識できるのは、ひらりと舞い落ちた、少女の制服――。
「ああら、お姉ちゃん怖かったあ? ぎゃははははははは」
何が何だか判らない。
男が確かに殺した少女は、あたしを殺そうとして、男にまた殺され、そして消えた?
何、一体何が起ったの!!?
「ガクガク震えちゃって可愛いねえ、ぎゃはははははは」
何がそんなにおかしいのか、男はあたしを見て爆笑するから。
だからあたしは――
「うるさいッ!!!」
――哀しくなったんだ。
同情や憐憫にも似た、この場ではまるで似つかわしくない感情があたしを支配する。
だからあたしはより一層躊躇(ためら)い、この不可解な感情と、その発信源の存在を無視できなくなった。
男は笑いをやめ、まじまじと…そんなあたしを見た。
だからあたしも精一杯相手を見据える。
負けるもんか。
無機質な金の瞳から、
あたしは目をそらさない。
そして…見えたんだ。
……闇だ。
艶やかな金色の瞳の奥に広がる、生粋の闇。
迷い込んだら、抜け出せなくなるような、そんな危険に満ちた闇。
――ちゃあああん!
ああ、また聞こえる。
――……ないでぇぇ!!
辺り一面、冥(くら)い闇ばかり。
あたしの中で、何かがざわつく。
何かが喚び起こされる。
――芹霞ちゃあああん!!!
「ぎゃはははは」
男の声に現実に引き戻される。
男は満足そうに笑いながら、軽やかに高塀に飛び乗り、こちらをゆっくりと見下ろした。
金色の…美しい獣のようだ。
「気に入ったよ、お前」
「……はあ?」
「マジ、気に入った」
随分とご満悦のようだ。