ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「俺は道化師(ジョーカー)だ。
女、お前の名前は?」
何ともふざけた名前だ。
例え普通の出会い方をしたとして、それじゃなくても初対面。
人を馬鹿にした態度は、許せない。
名乗る義理もない。
「……名は?」
あたしは、つんと顔をそらす。
「……名乗ったのに、答えないとは、ずいぶんと礼儀知らずの馬鹿女だな」
カチンッ。
「……芹霞」
これ以上ないというくらい…
自分の名前をどうでもよく吐き捨てたのは初めてだ。
「いいねえ、その目。ゾクゾクするよ。
お前、俺の女にならね?」
「断固拒否。M男(マゾ)には用はない」
「即答かよ。ぎゃははははは。
……でもよ、俺の女になっとけば、アレから護ってやるぜ?
何せ櫂ちゃん、アバラだからな。
アレじゃなくてオレに。
ぎゃはははははは」
ん?
「……櫂?」
知り合いなのか?
煌だけではなく、櫂も…この道化師と。
「紫堂の跡取りが弱いなあ。
こんなんじゃその内…
"血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)"如きに殺られるな、ぎゃははははは」
そして――
「紫堂櫂に言っとけ」
突如笑いを止めた金色の道化師は、真顔になってあたしに言う。
「摂理に逆らう全てのERRORは、神の鉄槌が下される、とな」
そして高く跳ね上がると――消えた。
忽然と、その姿はなくなったんだ。
「あんの野郎。また懲りずに」
煌が悔しそうに歯軋りをする。
そんな煌にあたしは最大の疑問をぶつけた。
「煌。"アバラ"って何?」
「ああ!!?」
かなり不機嫌な煌。
それに、負けずにいられるのは、長年の慣れが大きいけれど。
だけどそれ以上のものが、あたしを支配している。
あたしは、褐色の瞳を捕らえて訊く。
「煌。櫂のアバラって一体何?」
瞬間煌はびくっと体を揺らし、僅かに汗を滲ませながら、一歩また一歩と後退る。
「ま、まずは落ち着け。な、芹霞」
「答えろッッ!! 否とか戯言ぬかしたら、速攻電話かけるわ。
地獄で手招く緋狭姉に」
煌限定の最大級の脅し文句。
そして2つ折の携帯を開いた時、煌はこの世の終わりのような、悲痛な声を響かせた。