ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 
「ぎゃはははは。違うだろ、芹霞ちゃんよ。お前にとって紫堂櫂が一番で、それ以外は同列二番目。だけど、その紫堂櫂より優先して貰いたいのは、お前なんじゃねえの?」


「は?」


言っている意味が全く判らない。


「お前が怒っているのは、紫堂玲を助けに来ようとしなかったことじゃなく、お前の頼みをあの犬が渋ったからじゃねえの?」


どきり、とした。


「お前さ、あの犬の言い分訊いたわけ?」


「………」


「お前が縁切った時、あいつどんな顔してた? 薄情な顔していたか?」



あたしは思い出す。



縋るような目。

泣き出しそうな顔。



そんな顔をしていたことを。



「むしろ薄情なのは、そんな"ウルウルした子犬"を、ばっさり切り捨てられる芹霞ちゃんじゃねーの?」



そんな顔をさせたのは――

……あたしのせい?



「だとしたら。哀れまれるべきなのは、お前じゃなくてあいつの方じゃねえか、ぎゃははははは」



言い返せなかった。


それはあたしにも非があったことを認めるもので、それに対してあたしは反論の余地もなく。


あたしには一切非がないと、全ては煌が悪いのだと…煌の言い分すら却下して、初めから煌を非情に創り上げていたのは、他ならぬあたし。


あたしから離れようとしている煌に理不尽な怒りを感じながら、あたし自身もまた…煌を突き放していた。


もっと…煌を許容し、話し合うなりすべきだったんだじゃないか。


…ということに、こんなぎゃはぎゃは男に気づかされるとは。


神崎芹霞…不覚。


「……あんた、随分とお節介焼きだね」


そういうのは…嫌いじゃない。


「気まぐれと、憐憫と、ほんの少しの罪悪感」


「罪悪感?」


「そ。俺があの時出て行かなけりゃ、芹霞ちゃんは今頃此処にいねえもんな、ぎゃはははは」


「でもあの危機的状況から、助け出して貰ったことには変わりないし。此処はギブアンドテイクでしょう」


そう。

義理は義理。

そこら辺は割り切らないと。

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