ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「そうか、そうか。

そんなに顔を赤らめる程、芹霞が好きか。そこまで好きか。

私に図星を指されて私を避ける程、芹霞に惚れていたか。

桜にも言われて、更に恋心が募って悩んでしまったか。

然らば、芹霞に縁を切られたのは余程ショックだったろう?

折角道化師に言われ、恥ずかしいのを耐えて女だらけの店で、芹霞が好きなショートケーキを買ったのに、ぐだぐだ悩みすぎて蕩けてしまうわ、置き手紙にも名前省かれてしまうわ、散々だったな?

坊に言わざるをえないほど、そんなに切羽詰ってしまったか。

そうかそうか。本当にお前は可愛い…単純馬鹿犬だ」


怒濤のように攻め込んでくる。


ああ、もう。

何処まで知ってやがる、緋狭姉は。


これを言いたくて言いたくて、きっとずっと…うずうずしてたに違いねえ。


そして俺は…否定1つ出来やしねえ。


俺にとって芹霞は弱みになっちまった。

今まで以上の…最大の弱み。


そんな弱り切った俺を見て、緋狭姉は失礼にも笑い転げる。

そして横にある『鬼ごろし』を口にし、また笑い転げて……そして両目を閉じ、俺の胸に手を翳したんだ。


動から静に切り替わる。


その切り替えの速さは凄いと思う。


今――

俺は、上半身の服を脱いでいる。


緋狭姉はいつも通り、乱れた紅い襦袢だ。


緋狭姉の白い掌は、俺の裸の胸に触れるか触れないかのぎりぎりの部分で止まっている。


しかもここは、外界を遮断した特異な地下室。

防音設備が整いすぎた、だだっ広い鍛錬場に2人きり。


だけどやましいことは一切ねえ。


緋狭姉に手を出したいと夢にも思わねえが、もしそんな事態になったなら、それは俺の気が狂っている時だ。


その上で、地球上の女が誰も居なくなっていたら、もしかすると――



「お前は…死にたいのか」



……やっぱりそれでもありえねえ。

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