ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「何、ヤりたいの、芹霞ちゃん」
思わず近寄って、金髪男を抱きしめてしまったんだ。
「全く、全然、これっぽっちも」
「ぎゃはははは。変な女。本当に変な女だ。お前、怖い目にあったろうが」
それでも男はあたしを払いのけない。
「不問にする」
「はあ!?」
「あんた、多分いい人だから」
背中に回した手にぎゅっと力を込めた。
悪い人なら、あたしを騙したはずだ。
既成事実があったと、嘘をつくはずだ。
「……はあっ」
金色男は大きな溜息をついた。
「本当にお前、何なんだよ。おかげで予定、狂いっぱなしだ……」
男は苛立ったように、荒々しく金色の頭をがしがしと掻いた。
「言っとくけど。俺はこの先も味方じゃねえ。味方のようにお前が思えるのは、俺に魂胆……裏心があるからだ」
「へ?」
「だからそう、純粋に俺を信じるな、芹霞ちゃん。俺はいい奴じゃねえ」
男はあたしの両肩を掴んで身体を離し、少し困ったようにあたしを見た。
「俺は、お前の近くにいる男達と違う。もっと穢れてドロドロしていて、闇に侵食されている」
「それでも。あたしの大切な人達……玲くんと弥生を助けてくれたのなら、それだけで十分あんたはいい人よ、道化師」
金の瞳はあたしに絡みついてくる。
あたしの中の何かを、推し量りたいかのように、走査している。
「芹霞ちゃんよー」
男はあたしの名前を呼び、あたしを見た。
それは今までにない程真剣で。
だからあたしも真剣に見つめた。
すると金髪男は何かを口にしかけて…ふいと顔を横に逸らした。
ふわり、と金髪が、その頬に降る。
まるで…月の光のように。
「陽斗(はると)」
そう聞こえた。
はて?