ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「何、ヤりたいの、芹霞ちゃん」



思わず近寄って、金髪男を抱きしめてしまったんだ。



「全く、全然、これっぽっちも」


「ぎゃはははは。変な女。本当に変な女だ。お前、怖い目にあったろうが」


それでも男はあたしを払いのけない。



「不問にする」



「はあ!?」


「あんた、多分いい人だから」


背中に回した手にぎゅっと力を込めた。


悪い人なら、あたしを騙したはずだ。

既成事実があったと、嘘をつくはずだ。



「……はあっ」



金色男は大きな溜息をついた。



「本当にお前、何なんだよ。おかげで予定、狂いっぱなしだ……」



男は苛立ったように、荒々しく金色の頭をがしがしと掻いた。



「言っとくけど。俺はこの先も味方じゃねえ。味方のようにお前が思えるのは、俺に魂胆……裏心があるからだ」


「へ?」


「だからそう、純粋に俺を信じるな、芹霞ちゃん。俺はいい奴じゃねえ」



男はあたしの両肩を掴んで身体を離し、少し困ったようにあたしを見た。



「俺は、お前の近くにいる男達と違う。もっと穢れてドロドロしていて、闇に侵食されている」



「それでも。あたしの大切な人達……玲くんと弥生を助けてくれたのなら、それだけで十分あんたはいい人よ、道化師」



金の瞳はあたしに絡みついてくる。

あたしの中の何かを、推し量りたいかのように、走査している。



「芹霞ちゃんよー」



男はあたしの名前を呼び、あたしを見た。


それは今までにない程真剣で。

だからあたしも真剣に見つめた。


すると金髪男は何かを口にしかけて…ふいと顔を横に逸らした。


ふわり、と金髪が、その頬に降る。

まるで…月の光のように。



「陽斗(はると)」



そう聞こえた。



はて?



< 284 / 974 >

この作品をシェア

pagetop