ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
此処は話題を変えた方がいい。
あたしの防御本能がそう告げた。
理由は判らないが、そうした方がいい。
ええと――…。
「そうだッッ!!!
櫂、アバラって一体何よ!!?」
あたしは、そのことを聞きに来たんだ。
意味不明な怒りを貰いに来たわけではない。
すると櫂は、至って涼しい顔に超然とした表情を浮かべて。
「お前、俺が怪我しているように、見えるのか?」
「え?」
「見えるのか?」
重ねてゆったりとそう訊かれると、返答に詰まる。
目の前にいる櫂は、いつも通り仏頂面のまま余裕顔。
「…… 何とも…なかったの?」
端正な顔に浮かぶのは、悠然たる微笑だけ。
「当然だ「良かったなあ、"外された"だけで」
櫂と煌が同時に口にした。
櫂が慌てる煌を睨みつけるのと同時、あたしは確信して――立上がり様に櫂の胸に突進した。
案の定、そう来るとは思っていなかったらしい櫂は、あたしの頭突きをモロに受け、前屈みになって…心なしかぷるぷると震えている。
無敵のこいつがこんなに弱いはずはない。
「おわわわわ」
煌が、ムンクの叫びのような顔つきで、中途半端な姿勢で完全に凝固した…その時。
バタンッ
突如ドアが開き――
天使のように優しく微笑む…色素の薄い、白皙の美青年が現われた。
さらさらの鳶色の髪、
同色の瞳は透き通りそう。
薔薇の枠が喜んでついてきそうな、端麗に整った顔は何処までも中性的で柔和なものだ。
櫂が黒い王子様なら、彼は白い王子様。
彼は、いつものようににっこり微笑んだ。
「芹霞、安心して? 制服についた血のシミはちゃんと抜け…はあああ!!? 櫂、おい櫂ッッッ!!!?」
その顔が、突如驚愕に強張った。
「どうしたんだよ、櫂!!? 大丈夫か!!?」
「玲くん…」
あたしは、天使のような彼…紫堂玲(しどうれい)に言った。
「あたし…思い切り…
ゴツンしちゃいました」
ぷるぷると蹲(うずくま)って悶える櫂。
コトの大きさに気づいたあたしは、半べそ状態で…櫂の従兄たる20歳の玲くんに、救済を求めた。