ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「……返答次第じゃ、許さねえ」


俺の動きは呼吸のように滑らかに、そして自然に。


「!!!」


瞬時に反応した道化師が、鳩尾に繰り出した俺の拳を弾くその間に、偃月刀を斜めから振り下ろす。


以前空振ってばかりいたその動きは、道化師の身じろぎよりも早く、その腕に切りつけていた。


白い服に緋色の線が走る。


舌打ちした道化師が身体を捻りながら、足で俺の顎をとらえる。


だがそれを手で払い、反対の手にため込んだ気を解放する。


ドガッッ


壁が崩れたが、道化師は逃れたようだ。


「……ちっ!!!」


その姿を目で捕えると、瞬間的に俺は、左手で道化師の胸倉を掴み、右手で偃月刀の刃をその喉元に突き立てていた。



そして真横に引こうとした瞬間。



「やめて、煌!!!」


芹霞の声で俺の動きが、ぴたりと止まる。


芹霞が悲壮な表情で立ち竦み、ゆっくりと歩いてきて…偃月刀を持つ俺の手に触れ、駄目だと頭を横に振ったんだ。


「だってこいつは……」


お前を拉致した上に、お前を……。

言葉を飲み込んだ俺に、道化師は呟いた。


「……何もしてねえよ。

紫堂櫂が来ると思ったから、


ただの嫌がらせだ」


「嫌がらせ!!!?」


でも芹霞の首筋の赤い痕は、凄え数だ。


思わずその瞬間を想像した俺は、

わけもなくただ闇雲に叫び散らしたくなる。


敵意持って睨み付けた男の顔は。


俺からすっと目をそらし――

抵抗意思を無くして項垂れたその顔は。



酷く翳っていて、酷く苦しそうで。



――ぎゃはははは。



あの憎たらしい程の余裕が、覇気が見られない。

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