ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


思わず体が動きかけた時、芹霞が俺の手を掴んで、頭を横に振った。


「挑発に乗ったらだめ」


お前だって同じ気持ちのくせに。

お前のその目、怒りに燃えてるじゃねえか。


芹霞が小さく呟いた。


「煌、施設に刀置いてきたし」


そういえば。


「そんなもんどうでもいい。元より俺は、刃物なんて緋狭姉に言われたから嫌々使わざるをえないのであって……」

「え、そうなの?」


そんな小声の会話に、御階堂は苛立ったらしい。


「随分と余裕だな。紫堂があんな目にあったばかりだと言うのに」


あんな目ってどんな目だ?


「簡単にぶっ倒れただろう? 

紫堂もその従兄も。

……くっくっく」



「あの呪詛は――お前の仕業なのか!!?」


「血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は、先輩の仕業なの?」




俺と芹霞が同時に言葉を発し、思わず顔を見合わせた。



「両方――

そうだと言ったら?」



御階堂の愉快そうな顔に、俺は目を細めた。

 
反吐が出る。


「馬鹿なことはさっさとやめてよッ!!

人の命、何だと思ってるのよッ!!」


芹霞の声に、御階堂から表情が消える。


「どうしてそんなことすんのよッ!!」


飛びかかりそうな芹霞を後ろから押さえたが、尚も芹霞は四肢をばたばたさせていた。


「以前、言ったろう?」


抑揚無いゆっくりとした声。

芹霞は御階堂の顔を覗き込んだ。


「永遠に堕ち続けるのが、人の運命だと」



瞬間――

芹霞の動きが止まったんだ。

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