ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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屋敷は広すぎて、離れというものが見つからない。


あたし達は中庭に出てみたが、幾ら走っても離れらしきものは見つからない。


陽斗は何処にいるのだろう?


「ねえ、煌」

「……ん?」


「どうして氷皇…追ってこないの?」

「俺も思ってた」


「何考えてるの、あの人」

「判らねえ。あの男は本当、わかんねえ」


「……ねえ、煌」


「あ?」


「あたし先輩とさ、一年前に何かあった?」


途端、煌は怪訝な顔をした。


「何か言われたのか?」


煌は先ほどの先輩との会話は聞こえてなかったらしい。


「んー、まあね」


「知らねえ。つーか、俺あいつ嫌い。知りたくもね……芹霞、俺の後ろに居ろ」


突如、煌の声音が警戒に満ちた。


気づけば――


「!!!?」


夥(おびただ)しい数の黒服の敵に囲まれていて、そしてその集団は…一斉に飛びかかってきたんだ。


煌の左手はぶらりとしたままだったけれど、彼らは煌の敵ではなかった。


瞬時に、片手1本だけで敵を叩きのめしている。


次々に湧いてくる黒服。


凄い数だ。

わさわさだ。



「ん…?」


あたしの顔に何かかが飛んできた。

指で拭き取ると、それは真紅色。


慌てて煌を見れば、その頬がナイフに掠められていた。

だけど大したダメージでもないのか、平然としている。


肉と肉がぶつかる音。


刃物を振りかざされてても、その腕ごと煌は握りつぶしているようだ。


伊達に護衛に選ばれたわけではない。

伊達に緋狭姉との修行をしていたわけではない。


例え偃月刀がなくとも、体術だけでも…ミラクルスーパーワンコ。


何とか切り抜けられると…そう思っていた時。


バンバンバンッッ


銃弾の音がしたんだ。


単数ではなく…複数で。

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