ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
空気が…変わった。
緋狭姉が言い捨てると同時に、その姿が一瞬消え、ガツンという重い音がしたと同時に、蒼生の足と緋狭姉の腕が交わり、その場所を中心に放射状に爆風が吹き荒んでいた。
互いに一歩も引かず、それに対し何の感傷もないような平然とした眼差しをぶつけ合っている。
そして回転するように身を捩って緋狭姉が蒼生の首目掛けて蹴りを繰り出すと、蹴りの勢いでその両脇のアスファルトに一文字の亀裂が走った。
それを蒼生は片手で受け止め、その隙に蒼生の懐に潜り込んだ緋狭姉は手刀をその腹に入れる。
どすっ。
――入ってしまった。
蒼生に攻撃が入る様を、初めて見た。
蒼生がよろけて足を一歩後退する様を、初めて見た。
緋狭姉は、ここまで強かったのか?
あたしだって、蒼生の頬を殴ったことがあるけれど、だけどそれは蒼生の気まぐれ、お遊びだ。
身近な存在の圧倒的な強さを目の当たりにして、あたしはきっとぽかんとしていたと思う。
やがてにやりと笑った蒼生が口から血を吐き出し、
「アカ、身体なまった?」
そんな憎まれ口をきけば、
「そうだな。お前が『手』を使えば、もう少しましになると思うぞ? だがなに分、私も利き腕をなくしているから、どこまでお前の相手できるかは判らないがな」
そう緋狭姉が笑った…時だった。
「……ちっ」
緋狭姉が大きな舌打ちをしたのは。