ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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屋敷は酷い有様だ。


誰がどの部分を壊したかなど、もう判らない。


瓦礫と黒服男の山。


僕は掌の中の、ばちばちと青い火花を散らす月長石を目を向ける。


先刻まで僕が居たメインサーバ室を思い出す。


僕の部屋のものと同じ……までとはいかないが、それでも僕が目を見張る程の立派な設備が整い、そしてそれは不自然な亀裂や、焦げ付いた跡があった。


機械に火気は厳禁だ。


だから僕は煌をあまり部屋には入れないのだけれど、それでもある程度の設備となれば、緊急事態に備えて何かの防御対策はあるはずだ。


それはプログラムも同じく。


確かに僕はプログラムデータを盗み取り、改竄(かいざん)するなど攻撃はしていた。


応戦するような防御プログラムは破ったけれど、それでも核となるべきものの解析はそう簡単にできない。

とりあえず呪詛の解除だけを目的としていた僕は、マンションから飛び出してしまったけれど、今だってメインコンピュータの解析は続いている。


メインサーバはまだ動いている。



だが――

この部屋で実際眼にして軽い検証をしたら、

核の部分のプログラムが"解放"されていたのが判った。


物理的損傷は完全な致命傷ではなく、まだまだプログラムを動かしたり作ったりする余力は十分あるのに、その仕事を放棄していた。


僕は緋狭さんが連れた少女を思い出す。


幼い顔の奇妙な服装をした少女の身体は、まるでボロ雑巾のように酷い有様だった。


瀕死状態の身体を緋狭さんが抱き起こすと、


――かんざき、ごめんね。


そんなか細い声が聞こえた気がした。


もしかしてプログラムを"解放"したのは…彼女自身なのかも知れない。


彼女が芹霞の名において懺悔したのが真実ならば、彼女がただの悪者で終わるようには思えなかった。


それは芹霞を介した、直感にしか過ぎないけれど。


もし芹霞のあの魅惑的な瞳に囚われたのなら、どんな非情な心も溶かされるだろう。


だからこそ、皆芹霞に惹かれる。


心の奥底の闇を見据える黒い瞳に、全てを無効化され魅縛されるから。


――ごめんね。


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