ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「この家の地図だ」
緋狭さんは、胸元から畳んだ紙を抜き取った。
ベンツの車体に、片手で器用に広げたそれは間取り図。
紫堂本家には及ばないけれど、かなり広い。
母屋と思われる中央の部分と、離れと思われる3つの部分で構成されている。
部屋をつなぐ廊下は、まるで遠回りするように無駄に入り組み、長そうだ。
僕は明らかに不自然と思える場所にある、1つの部屋を指差した。
「地下室?」
それは廊下の中途半端な場所から、地下に繋がっているようだ。
まるで隠し部屋のように。
「そこがコンピュータ室だ」
僕は無言でそれを見つめた。
「玲様が相手をしていたのは、御階堂の者だったというのですか? しかし玲様ほどの腕を持つ方が御階堂家に居るなど私は聞いたことがありませんわ」
桜が怪訝な顔をして言った。
「御階堂では…だろう?」
緋狭さんは淡々と続ける。
「実力は玲程ではない。だが確実にお前に近しい力を持っているのは確かだ。御階堂は彼女に金と力を与えただけだ」
「……彼女?」
櫂が目を細める。
「玲は知っているだろう? お前が暇潰しに出没しているオンラインゲーム、『神が降りた』ら、お前とて引き分けだったはず」
――女の子なのにボクって言うし、口癖は『神が降りた』。
「遠坂由香……?」
緋狭さんはにやりと笑う。
「いいか、さっさとすませろ。私は彼女らを回収する。紫堂が直に車を寄越すだろう」
――彼女"ら"
複数いれば、帰りのベンツには乗り切れないということか。
何から何まで緋狭さんは、芹霞と同じ黒い瞳で先を見通す。
あの、僕の心を潤す瞳で。
「緋狭さん、
無礼な態度をとってしまい、
申し訳ありませんでした」
僕は正直に緋狭さんに頭を下げる。
信じよう、あの黒い瞳を。
僕しか出来ないことを優先しよう。
僕のせいで芹霞を奪われたのなら、
僕の我儘で失敗は許されない。
「櫂。後で行くから」
そう、僕はいつも櫂の後方で。
「……ああ、頼むな」
いつだって脇役の僕は――
主役の櫂を追い抜くことは出来ない。
それは…摂理。