ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 

思わず、離れていきそうな櫂の手を引いた。

その手で、虚ろな目で、異常を切に訴えた。


その切実さのおかげか、何とか曖昧な視界の輪郭が回復してくる。


見えてくれば、こっちのもの。


更に必死と櫂の手を握る。


逃すものか!!!



「「「………」」」



皆がじっとあたしを……

正確には、櫂の指ごとがっちり掴んだあたしの手を見ていた。


いわゆる…"恋人繋ぎ"を。



「「「………」」」



痛いくらいの視線が、手に突き刺さる。


見るなら手じゃなく、あたしの訴えにして欲しい。



だけど――



「櫂、お姫様がご所望だ。

……"お前"を」


"お前"を強調して、少しばかり冷淡な口調を向けた玲くんと、



「……ちッ。

……"櫂だけ"かよ」



"櫂だけ"を強調して、思い切り舌打ちしする煌は、



「「………はぁっ…」」



酷く重い溜息をつき、不機嫌度MAX状態で出て行ってしまった。


あたしの訴えは、2人には届かなかったらしい。



その反面、


「……どうした、芹霞?」


櫂は、とても機嫌がよくて。



それはそれはもう、嬉しそうな柔らかい声で。


一体何が彼の気分を高揚させているのか、皆目見当がつかなかったけれど。


それでもあたしの異変を訴えられる一縷の望みは櫂で。


あたしは喉を指差して、口をぱくぱくして、顔を顰めて、精一杯声を出せないことを体現した。


だけど――


「大丈夫。お前が眠るまで傍に居るから」


どうして判らないんだ、この男。


誰が寂しいから傍に居てくれなどと頼んでる!!


甚だしい勘違いに些か涙目になって、違うんだと頭を横に振った。


身体を動かすのは、正直まだだるいけれど…そんなことは言っていられない。



一生懸命訴える。



違う、違う。

寂しいわけじゃない。

声が出ないの。



それなのに。



「そんな潤んだ目で、誘うなよ」




訳の判らないことまで言い出した。



 
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