ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
エレベータで地下に降り、施設の廊下を歩く時も、陽斗はお姫様だっこスタイルを崩そうとしない。
しかもそうして歩くのが、嬉しそうにも見える。
解放されたのは、あたしが初めて目にする大きな部屋の中だった。
綺麗とは言い難く、半壊状態の部屋。
硝子の破片。
崩れた棚。
瓦解された壁。
細かく粉砕されたベッドらしきもの数台。
大きな機械や画面も壊され、ガラクタの山だ。
形骸を見ると、手術室のような場所だったのだろうか。
「ここの施設は、8年前に潰されたんだ。
紅皇って奴にな」
何の感慨もなく淡々と陽斗は言った。
"コウオウって誰?"
あたしは打込んだ携帯画面を見せる。
「氷皇のお仲間で、元老院付のとんでもなく強い女だ。氷皇を抑えられるのは、あの女ぐらいだろうな」
『あの女』
『氷皇を抑えられる』
あたしの脳裏に浮かぶのは、緋狭姉。
――腐れ縁だ。
まさか、ね。
「氷皇は基本足しか使わねえ。足だけで上り詰めた男だ。そんな氷皇に手を使わせたのは紅皇だけだと聞く」
――お前が『手』を使えば
…………。
ああ、何だろう。
顔がひきつってくる。
あたしは姉の過去は全然知らない。
"コウオウのお名前は?"
「しらね。元々あいつら"五皇"と呼ばれるものはプライベート部分が一切闇に隠されている連中だ。俺にしてみたら、氷皇が"蒼生"なのも初めて知ったぐらいだ。
紅皇は五皇の中では一番禁欲的で、神々しいと崇められている存在だ」
別人――だ。
一番堕落的で、悪魔じみている。
「詳しくは紫堂が知ってるはずだがな。紅皇は紫堂の監視兼指南役だったから。少なくとも8年前……俺が眠らされる直前までは。目覚めた時には紅皇は退役していた。行方くらいは紫堂櫂でも紫堂玲でも知っているはずだ」
よし、今度櫂と玲くんに問い詰めよう。
緋狭姉がやたら櫂達に構いたがるのは、あたしの幼馴染みだからだと思っていたけれど、違う理由があったのだろうか。