ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
男は喉元で笑いながら、更に玲様に焚きつける。
「二度目は、気高き獅子の襲名披露だったかね?
あれは酷かったね、君の母君が刃物を取り出して、気高き獅子に襲いかかり、敵わぬとみるや派手に自決した。
鮮やかな血を吹き上げさせて…
"紫堂に呪いを!"
あまりに素敵な末期の言葉に、儂は感激したよ」
玲様が、僅かに反応した。
それは私が隣り合う位置にいたからであって。
傍目からは恐らく無反応に見えるまま。
「ああ、儂が言わずとも…君は覚えているか。
噴き出る母君の血を…まるでいばらのように体に巻き付けて…君は間近でそれを見ていたものなあ?」
玲様は…仮面のような表情で、心を覆い隠していた。
鬱とした…翳り。
そこからは、玲様の心は推し量れない。
だからこそ――
私は、思わず拳を握りしめた。
全ては、噂でしか聞いたことがないけれど。
玲様のお父様は、現当主のお兄様で。
玲様のお母様は、気位高い元華族出で。
財界に名を馳せ躍進中の紫堂に、没落貴族の令嬢が嫁ぐということは、それは政略結婚に他ならず、そして紫堂が"化け物集団"たる悪評を耳にしていた彼女は、それこそ泣く泣く――そして、野望を抱いた。
嫁ぐならば紫堂の頂点に。
だが彼女に与えられたのは、
当主の技量ない柔和な兄で。
やがて彼女の失望は、完全実力主義の紫堂の踏襲に光を見出し、それが生まれた玲様への過剰な期待へと変わり、最期は発狂で幕を閉じることになる。
誰もが、私までもが――
信じて止まなかった玲様の"次期当主"。
打ち破った櫂様がその立場にとってかわり、そして気狂した玲様のお母様は、元老院も招かれた会場に乱入し、櫂様のお披露目を目茶苦茶にした上、呪いの言葉まで浴びせて壮絶に息絶えた。
櫂様は怒り狂った当主を説得し、玲様を始めとしたその血縁者を一切不問にした上で、そして玲様を傍に置いたと聞く。