ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「……ちッ」
舌打ちした男から、穏やかな仮面が剥がれ落ちる。
そこから出て来たのは、思い通りに出来ぬ苛立ちを色濃くした…不愉快そうな冷たい表情。
その顔のままで、席に戻っていく。
「12人たる元老院、
お1人足りぬのは何故でしょうか」
櫂様が射るような鋭い光を、切れ長の目に湛えた。
「藤姫抜けた11人と考えぬということは、判っておろうな?」
酷く艶めかしい女がくつくつと笑った。
「新たな席に就任した"あやつ"は、これから祝い事を披露してくれることになっていての、共に祝おうとお主らを呼んだまでじゃ」
「祝い事?」
暗喩するのは祭の主事変更のことだと、判っている櫂様は、判っていないふりをする。
「おほほほ。お主ら紫堂は、御子神祭の舞台から降りるのじゃ」
決定的な言葉だった。
櫂様の、そして私達紫堂の者の顔色窺い、何とも愉快そうな笑みを見せる11人の元老院達。
「紫堂に何か落ち度でも!?」
わざとらしく感じる、櫂様の口調。
焦るふりをして縋るふりをして、逆に元老院の出方を窺っている。
気分を損ねた元老院を高揚させるのは、紫堂を背負う櫂様の見せる…"滑稽さ"。
櫂様のように光輝く存在は、凡人のような…矮小な姿を晒す程、元老院は嬉々として満足する。
欲望に忠実な元老院は、ただただ己が愉しめればそれでいい。
それに誰が血を流そうと、自分が面白ければそれでいい。
誰が上で誰が下か、明らかになればそれでいい。
持ち上げてご機嫌取りをする、
それが――紫堂の実情。
そうして、ようやく御子神祭の主事を手に入れたのだろうに…元老院の意思1つで、その苦労は一瞬にして無に還る。
滑稽なのはどちらだろう。
紫堂か。
元老院か――。