ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 


「ご無礼を承知で申し上げます」


櫂様が片膝をついて、

恭しく頭を垂らした。


「この紫堂、御階堂に何処が劣っていましょうや?」



そして顔を上げた櫂様は――

その端正な顔は、不敵に輝いていた。


先程の慌てた様子を嘘のように払拭し、代わってみせるは……泰然自若とした姿勢。



私はこっそり腕時計を見る。


その動きに気づいた隣の玲様は、

微笑みながら小さく頷いた。



――時間だ。



「自惚れるのもいい加減にせい、気高き獅子。元老院が命令も完遂できずに、吠えるではないわ」


明らかに不快さを露わにさせた初老の眼鏡の老人が、手元の杖を苛立たし気に床に打ち付ける。


「元老院の命令?」


櫂様はすっとぼけた。


「よもや忘れたとでも言うではあるまいな?」


今度はひげの老人が嗄れた声で威嚇する。


「篠山亜利栖、なる少女でしたら心外な。命令よりも早く……既に皆様の傍近く、紫堂打破の先陣きってご健勝でありますでしょうに」


突如場がしんと静まり返った。


「在る筈もなき少女の探索は、それこそ"時期"までの時間稼ぎ。

太陽が火の獅子宮に入った時期の収穫祭。

……それが今回の御子神祭。


"眠れる者達"を喚び起こす為の名誉ある贄は、我が紫堂だったというわけですか」







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